平成24年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件
判例航海日誌
2014年2月21日
村松 大輔
平成24年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件
1.事件の概要
(1)特許庁における手続きの経緯
平成22年3月31日 特許出願(出願番号:特願2010-82481。特願2009-295281号の分割出願)
平成22年8月16日 拒絶査定
同年10月27日 拒絶査定不服審判請求
平成24年3月6日 審決をもって却下
(2)本件発明の内容
【請求項1】
建物内の場所名と、軸方向の長さでその場所にて節約可能な単位時間当たりの電力量とを表した第一場所軸と、
時刻を目盛に入れた時間を表す第一時間軸と、
取るべき省エネ行動を第一場所軸と第一時間軸によって特定される一定領域に示すための第一省エネ行動配置領域と、
からなり、
第一省エネ行動配置領域に省エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量を第一場所軸方向の長さ、省エネ行動の継続時間を第一時間軸の軸方向の長さとする第一省エネ行動識別領域を設けることで、該当する第一省エネ行動識別領域に示される省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量(省エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量と省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって把握可能な電力量)を示すことを特徴とする省エネ行動シート。
【請求項2】省略
(3)本件審決の理由の要旨
本願発明は,産業上利用することができる発明であるとは認められない。
2.争点
本件発明は自然法則を利用しているのか否か。
3.裁判所の判断
本願発明の構成について
(略)構成は,「省エネ行動シート」という図表のレイアウトについて,軸(「第一場所軸」と「第一時間軸」)と,これらの軸によって特定される領域(「第一省エネ行動配置領域」と「第一省エネ行動識別領域」)のそれぞれに名称を付し,意味付けすることによって特定するものであるから,各「軸」及び各「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。
そして,図表の各「軸」,及び軸によって特定される「領域」に,それぞれ「第一場所軸」,「第一時間軸」,「第一省エネ行動配置領域」及び「第一省エネ行動識別領域」という名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではなく,本願発明の「省エネ行動シート」を提示された人間が,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することを可能とするものである。
また,本願発明の「省エネ行動シート」は,人間に提示するものであり,何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして,人間に提示するための手段として,紙などの媒体に記録したり,ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない。
本願発明の課題と作用効果について
本件明細書の前記記載によれば,本願発明は,従来技術においては,各省エネ行動によってどれくらいの電力量又は電力量料金を節約できるのかを一見して把握することが難しく,どの省エネ行動を優先的に行うべきかを把握することが難しかったという課題を解決し,省エネ行動を取るべき時間と場所を一見して把握することが可能になり,かつ,各省エネ行動を取ることにより節約できる概略電力量を把握することが可能になるという効果を奏するものである。本願発明の上記作用効果は,一方の軸と,他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し,把握することができること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したものとはいえない。
4.考察
本件裁判は発明が自然法則を利用していると言えるためには、どのような要件を充足していなければならないかを判断するうえで、参考になるものであると考える。
本件裁判において裁判所は発明の自然法則の利用について、発明の構成と発明の課題と作用効果の2つの観点から判断している。言い換えれば、このうちの何れかの要件を充足すれば、自然法則を利用した発明に該当するということができると考える。
ここで、自然法則を利用する発明の構成について考察する。
本件発明は「シート」に係る発明であって、構成の面からの自然法則の利用性を否定されたが、「シート」に係る発明であって自然法則を利用していると認められている事例が多数ある。
弊所の顧客の発明に関するものであるので、詳述はできないが、単なる情報の提示と自然法則を利用する発明を分けるポイントの一つとして構成の位置関係を特定しているか否かという点あると考えている。弊所の事案にあっては、29条1項柱書違反の拒絶理由通知に対して、「AとBを表示する」との表現を「AとBを並べて表示する」と補正したところ、拒絶理由が解消したことがあった。
本件発明の請求項の記載を見ると、「第一時間軸」、「第一場所軸」、及び「第一省エネ行動識別領域」の位置的関係を特定する記載が無い。これらの構成の位置関係を特定するような補正を行えば、本件発明は「自然法則を利用している」と認められる可能性もあったと考える。
以上
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