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  • 地球を救う?環境にやさしい無機触媒の最前線

    2019.06.28カテゴリー:

    研究室から最新の発明紹介

    時代をリードする最先端の発明が行われている大学の研究室。

    今この瞬間も、地球環境を救う発明が産み出されているかもしれません。

    この「研究室から最新の発明紹介」コンテンツでは、

    我々みなとみらい特許事務所と同じく、横浜に本拠地を構える大学研究室の最新の発明を実際に取材し、対談形式でご紹介させていただきます。

    特に、本記事をご覧いただいた企業の皆様に、企画・製品化のきっかけや

    ヒントにつながるようなコンテンツにしていきたいと考えている次第です。

     

    【発明の名称、代表発明者】

    チタノシリケートとその製造方法

    国立大学法人横浜国立大学 大学院 工学研究院 教授

    窪田 好浩 氏

     

    環境にやさしい無機触媒~チタノシリケート~

    辻田:

    まず、先生が最近出願された特許明細書に記載の技術について、化学の素人にも分かり易く教えていただけますでしょうか?

     

    窪田:

    私の研究対象は、ゼオライトに関するものです。

    ゼオライトという言葉は一般にはなじみがないかもしれませんが、鉱物、石の仲間です。ゼオライトは基本的に、ケイ素、酸素、アルミニウムといった地球上で最もありふれた元素から成っていて、これらの原子が規則正しくならんだ結晶構造をもっています。

    ゼオライトの構造の特徴は、直径が1mmの百万分の一程度のミクロな穴が無数に開いて内部に大きさのそろった様々なミクロ空間をつくっていることです。そして、そのミクロな穴と内部空間が整然と並んでいます。

    この内部空間に触媒作用の源となる原子を組み込むと、ゼオライトが触媒として作用するようになり、穴を通り抜ける形・大きさの分子からなる化学物質だけを反応させたりつくったりすることができます。

    今回の特許に示されている物質は、ゼオライトに本来含まれているアルミニウム元素を抜いて、代わりにチタン元素を入れた「チタノシリケート」と呼ばれるものです。

    チタンは直前に述べた触媒作用の源となる元素の1つです。原子レベルで酸素の受け渡しを担います。

    チタノシリケートの基本特許は、2006年に出願()しましたが、現在は、このチタノシリケートを工業的に応用するために、より簡便な製造法を模索しています。それが、今回出願した特許です。

     

    辻田:

    化学触媒といいますと、有機の化学品のようなものをイメージしますが、チタノシリケートを利用した触媒はどのような利点があるのでしょうか。

     

    窪田:

    環境にやさしいことが利点です。

    使い終わったチタノシリケートは回収して再利用ができます。

    従来使われている有機の化学品ですと、回収するのが難しく、基本的に使い捨てになります。そして、それが環境汚染の原因となっているのです。

    今回のシーズに含まれる「有害な廃棄物を出さない化学プロセス」は、

    「環境調和型プロセス」、「グリーンケミストリー」等の用語で表現される技術要素です。

    グリーンケミストリーは二十数年前にGreen & Sustainable Chemistry (GSC) という概念に拡張されて非常に重要な観点になっています。

    GSCを推進することは、20159月に国連で新たに採択された

    Sustainable Development Goals (SDGs) の達成による持続可能な社会の構築にも貢献します。

     

    辻田:

    環境調和型プロセスということで、工業への応用が望まれるところだと思うのですが、チタノシリケートはどのような分野で応用されるのでしょうか?

     

    窪田:

    例えば、プラスチックのような工業品の製造や、医薬品の原薬の製造への応用が検討されています。

    守秘義務のため具体的な話はできないのですが、共同開発の依頼をうけることもありました。

     

    辻田:

    共同研究はどのような形でオファーがあるのでしょうか?

     

    窪田:

    研究室でいいシーズが出てきたら、これを企業に提案するのが一つのパターン。

    そうすると、企業は、もっと簡単なプロセスで作れないか?ということでニーズを伝えてきます。

    料理でいうと、ある料理を作るのに、レシピにああしてこうして、と10プロセスくらい記載してあるのが面倒だ、ということで、これ、全部混ぜてレンジでチン!と行きませんか?というようなニーズです。

    大企業でも触媒は「内製」ではなく、外注するケースが多いので、管理が難しい複雑なプロセスでは都合がよくない。

    最初言われると、そんなのできるはずないよ!と思うわけですが、できるものの質が多少落ちるもののできてしまうんですね。分野によっては、それでも簡単なプロセスの方がいいということがあるのです。

    それが、今回の特許です。

     

    辻田:

    まさに、産学連携の成果ですね。

     

    窪田:

    10年前の基本技術が完成した際、論文的には大変うれしい技術だったのですが、工業的に応用するためには、さらに2段も3段も新たな壁を乗り越えなければならない。

    共同研究は、そのきっかけを与えてくれることがあります。

     

    辻田:

    先生のHPで、医薬品の分野などにも応用可能性があると読みました。

     

    窪田:

    医薬品分野ですと、性能をやや犠牲にしてまで環境調和型な製法にこだわらないので、日本ではあまり具体的な検討がされていません。

    一方で、ジェネリック大国のインドでは、ゼオライト触媒を用いた原薬の製造等の報告も多数見ます。

     

    国柄によっては、原薬製造に使えることも分かりましたので、そういった企業との連携も今後考えられます。

     

    辻田:

    環境にやさしいプロセスというのは、将来の地球環境のためにとても重要なことだと思います。

    本日は興味深い話を聞かせていただきありがとうございました。

     

    )特許4923248号(2012212日)

    窪田・稲垣研究室について

    (窪田・稲垣研究室より引用 http://www.kubota.ynu.ac.jp/

    触媒は資源・環境・エネルギーの諸問題の解決に大きく貢献していくものと期待されています。触媒のなかでも、特にゼオライトやメソポーラスシリカなどの「規則性多孔体」は近年ますます注目されています。「規則性多孔体」は結晶構造あるいは結晶に近い規則性構造の中に有機分子程度のサイズで大きさのそろった孔(細孔と呼びます)をもつ非常にユニークな物質です。

     

    我々の技術をつかえば、ナノメートル以下のオーダーで構造の異なる規則性多孔体をつくり分けることができます。そこで我々の研究室では、規則性多孔体の新しい合成法の開発を行っています。得られた物質は、その細孔構造により分子認識(有機分子の大きさや形を見分けること)の能力を発揮します。これを利用して、有毒な薬品を用いず不要な廃棄物も産出しない、「環境調和型の」(環境にやさしい)化学変換法をつくりあげるための基盤となる化学的な研究を行っています。

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