◇弁理士によるコラム◇国家的緊急事態を解決するための技術に特許権が成立した場合!◇
みなとみらい特許事務所、弁理士の村松でございます。
「公共の利益のための通常実施権の裁定制度」
についてお話をしたいと思います。昨今は新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっており、
世界経済にも大きな影響を与えています。
そして、新型コロナウイルスの早期の終息のため、
治療効果が期待される医薬品の治験やワクチンの開発などが
急ピッチで進められています。
新型コロナウイルスの治療技術が確立できたとなれば、
それは有用な「発明」であるといえますので、特許権が成立する可能性が十分にあります。このように、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大のような国家的緊急事態を
解決するための技術に特許権が成立していることは十分にあり得ることなのです。
このような極めて重要な特許発明を、
国を挙げて大規模に実施しなければならないにも関わらず、
特許権者が他者へのライセンス許諾を拒否したらどうなるのでしょうか?
特許権者の許諾が無い以上、特許発明の利用は許されず、
危機的状況のさらなる悪化を傍観するしかないのでしょうか?
このようなことが公益的に許されないことではないことは明らかです。特許法はこのような公益に反した事態が生じることを防止するために
「公共の利益のための通常実施権の裁定制度」を用意しています(特許法93条)。特許発明の実施が「公共の利益のため特に必要であるとき」には、
実施希望者が特許権者に対してライセンスの許諾について協議を求めることができ、
それが不調に終わったときには経済産業大臣の裁定を請求できるという制度です。この制度により、仮に特許権者とのライセンス交渉が不調に終わった場合であっても、
経済産業大臣の裁定がなされれば、その内容に従って強制的に
ライセンス(通常実施権)が設定され、特許発明の実施が可能となります。なお、同様の制度は諸外国特許法にも存在しており、
近年ではドイツにおいて日本の製薬企業が保有する抗HIV剤に関する
特許について強制ライセンスが設定された事例が知られています。
お気軽にご相談・お問い合せくださいませ