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  • 平成30年(行ケ)第10157号 「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」事件

    2020.07.10カテゴリー:

    判例航海日誌ブログ

    判例航海日誌

    令和2年7月9日

    みなとみらい特許事務所

    技術部 E・K

     

    平成30年(行ケ)第10157号

    「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」事件

     

    1.事件の概要

    <1>特許庁における手続の経緯

    平成23年12月15日 特許出願(優先日;平成22年12月24日)

    平成25年2月15日  設定登録

    平成26年6月16日  特許無効審判請求(本件審判;無効2014-800103号)

    平成27年7月6日   訂正請求(本件訂正)

    平成27年12月28日 審決(第1次審決;特許無効)

    平成28年2月5日   審決取消訴訟提起(前訴)

    平成29年6月14日  判決(前訴判決;審決取消)

    平成30年9月25日  審決(本件審決;審判請求は成り立たない)

    平成30年11月2日  審決取消訴訟提起

     

    <2>本願発明と引用発明の対比

    (1)本願発明

    【請求項1】

    第一成分として,一般式(I-1)から一般式(I-4)

    【化1】

    (式中,R¹及びR²はそれぞれ独立して以下の式(R-1)から式(R-15)

    【化2】

    の何れかを表す。)で表される重合性化合物を一種又は二種以上含有し,第二成分として,一般式(II)

    【化3】

    (式中,R³は炭素数1から10のアルキル基を表し,R⁴は炭素数1から10のアルキル基又はアルコキシル基を表し,mは0,1又は2を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とする重合性化合物含有

    液晶組成物であって,

    一般式(IV-1)

    【化8】

    (式中,R³は前記R³と同じ意味を表し,R⁴は前記R⁴と同じ意味を表す)で表される化合物を1種又は2種以上含有し,塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない,重合性化合物含有液晶組成物。

     

    (2)甲1A発明

    「第一成分として,・・・式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(1)),

    第二成分として,・・・式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(2)),及び

    第三成分として・・・式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(3))を含有し,

    第三成分を除く液晶組成物の重量に基づいて,第一成分の割合が10重量%から60重量%の範囲であり,第二成分の割合が5重量%から50重量%の範囲であり,そして第三成分を除く液晶組成物100重量部に対して,第三成分の割合が0.05重量部から10重量部の範囲であり,そしてネマチック相の上限温度が70℃以上であり,波長589nmにおける光学異方性(25℃)が0.08以上であり,そして周波数1kHzにおける誘電率異方性(25℃)が-2以下である,液晶組成物。

    (3)本願発明と甲1発明との相違点及び一致点

    (一致点)

    「第一成分として,『・・・式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(3))』を含有し,

    第二成分として,『・・・式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(1))』を含有することを特徴とする重合性化合物含有液晶組成物であって,

    『・・・式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(2))』を含有する,重合性化合物含有液晶組成物。

     

    (相違点1)

    本件発明1の「第一成分」が「一般式(I-1)から一般式(I-4)で表される重合性化合物の一種又は二種以上」であるのに対し,甲1発明Aの「第三成分」は「・・・式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(3))」である点

    (相違点2)

    本件発明1の「第二成分」が「一般式(II)で表される化合物を1種又は2種以上」であるのに対し,甲1発明Aの「第一成分」は「・・・式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(1))」である点

    (相違点3)

    本件発明1が「一般式(IV-1)で表される重合性化合物を1種又は2種以上」含有するのに対し,甲1発明Aは「第二成分」として「・・・式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物(化合物(2))」を含有する点

    (相違点4)

    本件発明1は「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」のに対し,甲1発明Aは,「塩素原子で置換された液晶化合物」を含有するか否か特定されていない点

     

    2.裁判所の判断(下線は筆者追記)

    ア 甲1発明Aと本件発明1との関係

    甲1発明Aと本件発明1とを対比すると,相違点1ないし4(前記第2の3(2)イ)が存在すると認められる。

    そして,相違点1ないし3に関し,①甲1発明Aの第一成分として式(1)で表される化合物は,本件発明1の第二成分として一般式(II)で表される化合物に,②甲1発明Aの第二成分として式(2)で表される化合物は,本件発明1の一般式(IV-1)で表される化合物に,③甲1発明Aの第三成分として式(3)で表される化合物は,本件発明1の第一成分として一般式(Ⅰ-1)から一般式(Ⅰ-4)で表される重合性化合物にそれぞれ対応するものであり,かつ,甲1発明Aの化合物に本件発明1の化合物の全部又は一部が包含されている関係にあると認められる。

    さらに,相違点4に関し,甲1発明Aは,第一成分として式(1)で表される化合物,第二成分として式(2)で表される化合物,及び第三成分として式(3)で表される化合物を含有するものであるところ,甲1発明Aには,これらの化合物として,塩素原子を含むものは記載されていない。

    しかしながら,甲1発明Aは,第一成分ないし第三成分の化合物を「含有する」と特定するのみで,それ以外の化合物が含まれることを排除しておらず,また,甲1には,誘電率異方性の絶対値を上げるために,第四成分として,式(4-1)で表される,塩素原子で置換された液晶化合物を含むことができる旨が記載されているほか(【請求項22】,【0052】,【0053】,【0056】),甲1発明Aに対応する実施例として,「塩素原子で置換された液晶化合物」を含有しない液晶組成物(実施例21)と,これを含有する液晶組成物(実施例20)の両者が記載されているものと認められる(【0133】,【0134】)。そうすると,かかる甲1の記載からみて,甲1発明Aには,本件発明1の構成である「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様と,これを含有する態様という二つの態様が包含されているといえる。

    以上によれば,本件発明1は,甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあると認められる。

     

    イ 本件発明1の特許性について

    特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。

    したがって,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないところ,甲1には,本件発明1に該当する態様が具体的に開示されていることは認められない。

    そこで,本件発明1が甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏するものであるかについて,以下検討する。

    (ア) 本件発明1の効果

    本件明細書の記載事項によれば,「本発明」は,第一成分として,一般式(I)で表される重合性化合物を1種又は2種以上含有し,第二成分として,一般式(II)で表される液晶化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とするものであって,①低い温度で長時間放置した場合でも析出することなくネマチック状態を維持すること(効果(1)),②粘度が低いため,液晶表示素子とした場合の応答速度が速く,3D表示などへの適用も可能であること(効果(2)),③均一かつ安定な配向制御が得られ,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと(効果(3))という効果を奏するものであり,この点に本件発明1の技術的意義があることを理解できる(前記(1)イ(イ),(ウ))。

    また,本件明細書の記載事項によれば,効果(1)ないし(3)に関し,次のような開示があることが認められる。

    a 効果(1)(低温保存性の向上)に関し

    実施例1~4の液晶組成物が,-40℃及び-25℃のいずれの温度においても,2週間又は3週間ネマチック状態を維持したのに対し,フッ素原子を有しない重合性化合物を用いた比較例1の液晶組成物は,ネマチック状態を1週間しか維持せず,2週目には析出が確認された(前記(1)イ(エ)a)。

    ・・・(中略)・・・

    c 効果(3)(焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)について

    一般式(Ⅰ)におけるビフェニル骨格の構造は,式(I-11)から式(I-14)(式(I-1)~式(I-4))であることがより好ましく,かかる骨格を含む重合性化合物は,重合後の配向規制力がPSA型液晶表示素子に最適であり,良好な配向状態が得られることから,表示ムラが抑制されるか,又は全く発生しない。また,焼き付きや表示ムラ等の表示不良を抑制するため,又は,全く発生させないためには,塩素原子で置換される液晶化合物を含有することは好ましくない(前記(1)イ(イ))。

    実施例1~6及び比較例2の液晶組成物において,重合性化合物の液晶化合物に対する配向規制力をプレチルト角の測定により確認した(前記(1)イ(エ)c)。

    (イ) 甲1発明Aの効果

    甲1の記載事項によれば,「本発明」は,・・・第一成分として化合物(1)の群から選択された少なくとも1つの化合物,第二成分として化合物(2)の群から選択された少なくとも1つの化合物,及び第三成分として化合物(3)の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有する液晶組成物という構成を採用したものであって,この点に同発明の技術的意義があることを理解できる(前記(2)イ(ア)~(ウ))。

    そして,液晶分子の性質は,その末端部,コア部等の構造によって異なるものであることからすると(甲41,乙13),多様な構造を採り得る化合物(1)ないし(3)を配合成分とする甲1発明Aは,これらの化合物の組合せやその配合量を最適化することで,上記の望ましい特性を複数備えた液晶組成物を得ることを前提とするものといえる。

    ここで,甲1の実施例(1~52)は,甲1発明Aの化合物(1)ないし(3)の組合せやその配合量を最適化した甲1発明Aの具体例であると認められるところ,いずれも,ネマチック相の下限温度(Tc)が「≦-20℃」(ただし,実施例21のみ「≦-30℃」)であって,ネマチック相の好ましい下限温度である-10℃以下より低いものであり,また,比較例1のそれと比べて短い応答時間を有するものである(前記(2)イ(オ))。

    そして,これに加えて,化合物(3)を,表示不良を防ぐために好ましい割合である「0.1重量部から2重量部の範囲」(【0060】)である0.2重量部ないし0.5重量部含有するものであることに鑑みると,本件優先日当時の当業者は,これらの実施例について,ネマチック相の低い下限温度,及び適度な応答時間を与える小さい粘度(【0072】,表1)を示すものであり,さらに,重合性化合物(化合物(3))を適量用いたことにより表示不良が生じないという,液晶組成物の三つの望ましい特性,すなわち,①広い温度範囲において析出することがない,②高速応答に対応した低い粘度である,③表示不良を生じない,ことを同時に満たす液晶組成物であることを理解するものといえる。・・・

    (ウ) 効果の特別顕著性について

    a 効果(1)(低温保存性の向上)について・・・

    (a) 本件発明1に関し,本件明細書には,実施例1~4及び比較例1の液晶組成物の低温保存試験において,実施例1~4は,-40℃及び-25℃のいずれの温度においても,2週間又は3週間ネマチック状態を維持したのに対し,フッ素原子を有しない重合性化合物を用いた比較例1の液晶組成物(【0073】,【0074】)は,ネマチック状態を1週間しか維持せず,2週目には析出が確認された旨が記載されている(前記⑴イ(エ)a)。

    他方,甲1発明Aに関し,甲1には,実施例1~52及び「本発明」の第三成分を含有していない比較例1の組成物は,いずれも,ネマチック相の下限温度(Tc)が「≦-20℃」(ただし,実施例21のみ「≦-30℃」)であり,ネマチック相の好ましい下限温度である-10℃以下より低いものである旨が記載されている(前記(2))。

    (b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,甲1の実施例1~52及び比較例1の「下限温度」は,-40℃及び-30℃のいずれでも(ただし,実施例21は「-40℃では」)10日以内に結晶又はスメクチック相に変化したものと理解できるのに対し,本件明細書の実施例1~4は,-25℃及び-40℃で2週間又は3週間ネマチック状態を維持したと記載されているから,甲1に記載された実験結果より低い温度でより長い期間に渡り安定性が維持されるものと解することができ,本件発明1の低温保存性は,甲1に記載されていない有利な効果である旨判断した。

    しかしながら,そもそも,本件明細書に記載された低温保存試験は,具体的な測定方法,測定条件について記載されていないため,甲1に記載された低温保存試験と同じ測定方法,測定条件で実施されたものであるかについて,本件明細書の記載からは明らかでない。

    また,液晶組成物の低温保存試験は,液晶組成物のその他の物性値である粘度,光学異方性値,誘電率異方性値等と異なり,確立された標準的な手法は存在しないところ(弁論の全趣旨),甲32(原告従業員による平成30年7月12日付けの試験成績証明書)においては,試験管(P-12M)を用いた場合とクリーンバイアル瓶(A-No.3)を用いた場合という容器の形状等の違いで実験結果に差異が生じ,甲1の実施例20と甲82(株式会社UKCシステムエンジニアリングによる平成31年4月17日付け試験報告書)の実験結果の間でも,低温保存試験の条件によって実験結果が異なることからすると,液晶組成物の低温保存試験においては,試験方法や試験条件が異なることで過冷却の状態が生じることを否定できず(甲40),試験結果に著しい差異が生じる可能性があるものと認められる。

    加えて,甲1の低温保存試験においては,化合物(1)ないし(3)の組合せやその配合量が顕著に異なる液晶組成物であっても,実施例21(「Tc≦-30℃」)を除いて,「Tc≦-20℃」という同じ結果となっているのに対し,本件明細書の実施例1~4と比較例1は,フッ素原子を有する重合性化合物又はフッ素原子を有しない重合性化合物という配合成分の差異のみで,-25℃及び-40℃におけるネマチック状態の維持期間が顕著に異なる結果となっている。

    (c) 以上の事情に照らすと,低温保存試験に関する甲1の実験と本件明細書の実験が,同じ配合組成(配合成分及び配合量)の液晶組成物を試験した場合に同様の試験結果が得られるような,共通の試験方法,試験条件において実施されたものとは,にわかに考え難いというべきである。

    さらに,本件明細書において,実施例1~4と対比されたのは,重合性化合物にフッ素原子を有しない構造を有するというほかは,実施例1~4と同様の配合組成を有する比較例1であって,その配合組成は,甲1の実施例(1~52)とは顕著に異なるものである。

    そして,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験である旨主張する乙14についても同様であることから,本件明細書及び乙14の実験結果のみから,本件発明1の効果と甲1発明Aの効果を比較することは困難である。

    したがって,本件明細書に記載された実施例1~4の下限温度と,甲1に記載された実施例及び比較例の下限温度とを単純に比較するだけで,低温保存に係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの効果よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。

    ・・・(中略)・・・

    c 効果(3)(焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)について

    (a) 本件発明1に関し,本件明細書には,実施例1~6の液晶組成物,及びフッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II-A)及び(II-B)で表される化合物を含まない比較例2の液晶組成物において,重合性化合物の液晶化合物に対する配向規制力をプレチルト角の測定により確認した旨が記載されている(前記⑴イ(エ)c)。

    一方,甲1発明Aに関し,甲1には,第三成分の好ましい割合は,表示不良を防ぐために,第三成分を除いた液晶組成物100重量部に対して10重量部以下であり,さらに好ましい割合は,0.1重量部から2重量部の範囲である旨が記載されている(前記⑵イ(エ))。

    (b) 前記(a)の記載に関し本件審決は,本件明細書には,実施例1~4が,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないという効果(効果(3))を奏することは具体的に記載されていないが,実施例1~4においては,「環構造と重合性官能基のみを持つ1,4-フェニレン基等の構造を有する重合性化合物」に相当する重合性化合物(I-11)が用いられ,かつ,当該重合性化合物が添加された液晶組成物は,いずれも「アルケニル基や塩素原子を含む液晶化合物を使用」していないから,従来から公知の技術的事項に照らして,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないものである蓋然性が高いといえる旨判断した。

    しかしながら,前記(a)のとおり,本件明細書には,実施例1~6及び比較例2に関し,「重合性化合物の液晶化合物に対する配向規制力をプレチルト角の測定により確認した」旨が記載されているに過ぎず,本件明細書及び被告の提出する実験報告書(甲46~48)を参照しても,焼き付き等の表示不良の有無や程度についての評価が可能な,プレチルト角の経時変化及び安定性に関する実験結果は記載されておらず,VHR(電圧保持率)についても,いかなる条件で得られた数値が,この評価の対象とされ,どの程度の数値を示せば,焼き付き等の表示不良を生じないと評価できるのか等の詳細について,何ら具体的な説明はされていない。

    したがって,仮に,焼き付き等の表示不良とプレチルト角の経時変化及び安定性又はVHRとの間に一定の相関関係があったとしても,本件明細書及び甲46~48に示された実験結果に基づいて,本件発明1が達成している焼き付き等の表示不良抑制の程度を評価することはできないというべきである。

    (c) また,本件明細書には,式(I-1)ないし(I-4)の重合性化合物を用いることにより,表示ムラが抑制されるか,又は全く発生しないこと,また,焼き付きや表示ムラ等の表示不良を抑制するため,又は全く発生させないためには,塩素原子で置換される液晶化合物を含有することは好ましくないことが記載されているところ(前記(1)イ(イ)),甲1の実施例の半数以上(実施例5,7,11,13,26~27,29~52 )が,本件発明1の重合性化合物(I-1)~(I-4)のいずれかに相当する重合性液晶化合物(化合物(3-3-1),(3-4-1),(3-7-1),(3-8-1))を含有し,また,甲1の実施例の7割以上(実施例2~8,11~16,19,21~24,28~30,35~52)が,塩素原子で置換された液晶化合物を含有していない。

    さらに,本件明細書において,実施例1~6と対比されたのは,フッ素原子を有しない重合性化合物を用い,かつ一般式(II-A)及び(II-B)で表される化合物を含まない比較例2であって,その配合組成は,甲1の実施例(1~52)とは顕著に異なるものであり,この点は,被告において本件明細書の試験の再現実験である旨主張する甲46~48についても同様であるから,仮に本件発明1の実施例が比較例よりも有利な結果を示したとしても,甲1の実施例に対しても同様に有利な結果を示すとは限らない。

    (d) 以上の事情に照らすと,焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないことに係る本件発明1の効果が,甲1発明Aの表示不良が生じない効果よりも顕著に有利なものであると認めることはできない。

    d 小括

    以上によると,本件発明1は,甲1の実施例で示された液晶組成物では到底得られないような効果(低温保存性の向上,低粘度及び焼き付きや表示ムラ等が少ないか全くないこと)を示すものとは認められないので,本件発明1が,甲1発明Aと比較して,格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

     

    3.実務上の指針

     原料の入手可能性等によって、現実的ではない場合も考えられるが、出願発明と近い先行技術文献が存在する場合、後で効果の比較がしやすいように、当該先行技術文献に記載の測定方法にて、データを取得することができないか、検討する必要があると考えられる。

     

    以上

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