Myriad Genetics vs Association of Molecular Pathology
2013年6月21日
Myriad Genetics vs Association of Molecular Pathology
経緯
ミリアド社の有する特許権
①乳がん及び卵巣ガンの発症に関する単離された遺伝子(BRCA1, BRCA2)の特許
②これらの遺伝子変異を比較する検査方法の特許
③これらの遺伝子を用いたスクリーニング方法
これに対して研究者、患者団体等が特許無効を争う提訴をニューヨーク州裁判所に提訴した。
●2010年5月29日
Myriad社の特許を無効とする判決がニューヨーク地方裁判所において出された。
●2011年7月29日
CAFCは、上記①単離された遺伝子の特許及び上記③スクリーニング方法の特許に関しては、特許適格性を認める判決をした。
●2012年3月26日
最高裁は、ミリアッド事件を再審理するようCAFCに差し戻した。
●2012年8月16日
差し戻し審のCAFCは、結論を変えない判決をした。
争点
ヒトの遺伝子に特許適格性は認められるか
判決の要旨
Held: A naturally occurring DNA segment is a product of nature and not patent eligible merely because it has been isolated, but cDNA is patent eligible because it is not naturally occurring.
自然に発生するDNA断片は自然の産物であり、特許は認められない、しかしcDNAは自然に発生しないため特許は認められる。
考察
本判決は、DNAについての特許が認められるボーダーについて示した判決ということができると考える。
本判決で特許性が認められたcDNAは、①細胞からのmRNAラブラリーの抽出、②逆転写反応によるcDNAライブラリーの作成、③特異的プライマーを使用したPCR反応、④PCR断片のベクターへの組み込み、といった作業により作成されるものである。
一方、本判決で特許適格性が認められなかった「単離したDNA」も、ゲノムDNAの制限断片もしくはゲノムDNAをテンプレートとしたPCR断片のベクターへのクローニング操作により作成されるものである。
両者ともに自然に発生することは無く、人為的な操作により生成するものであるが決定的な違いがある。それは、cDNAはイントロンを除去されエキソン同士が結合しているという「自然には発生し得ない配列」を有している点にある。つまり、「単離されたDNA」の「配列」は自然に発生するものであるから特許適格性はないとするのが今回の判決のポイントである。
本判決により、ゲノムDNAの配列自体について特許を取ることはできなくなったため、バイオ、製薬企業の特許戦略は変更を余儀なくされると考えられる。一方、研究者は特許権侵害を恐れることなく遺伝子研究を行うことができる。そして、今まで不当に高額であった遺伝子診断を安価に受けることができるという一般公衆への利益ももたらされると考えられる。
一方、本判決によっては解決されなかったいくつかの問題がある。
本判決では、自然に発生するDNA配列には特許適格性が認められないとされたが、自然に発生するタンパク質のアミノ酸配列やRNAの塩基配列についての特許適格性については言及していない。
また、今回の判決は特にヒトの遺伝子に限定しておらず、動物、植物、細菌、ウイルスについてはどのような扱いになるのかという点が定かではない。例えばバクテリアやウイルスゲノムにはヒトやその他の高等生物には見られないようなユニークなDNA(RNA)配列を持っていることがあり、その自然に発生する配列自体が有用な機能を有している場合がある(例えばloxP配列やfrt配列)。今後そのような有用な配列が発見され単離された場合に、本判例がそのまま適用されると、特許の対象にならない可能性ある。
みなとみらい特許事務所
弁理士 辻田朋子
技術部 村松大輔
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