弁理士が教える 特許実務Q&A~審査請求の時期を検討する際の考慮要素~
※「経営資料センター特許事務所だより」より抜粋して紹介しております。
【質 問】
特許出願では、出願手続と別個に審査請求という手続を行わないと、
特許庁での審査が開始されないと聞いています。審査請求をいつ行えばよいのか、審査請求するタイミングの検討にあたって
考慮すべき要素としてどのようなものがあるか教えてください。【回 答】
審査請求は、特許出願日から3年以内であればいつでも行うことができます。つまり、特許出願と同時に審査請求することができますし、
特許出願日から3年目ぎりぎりの日に審査請求することもできます。以下、この審査請求が可能な3年間のうち、どのタイミングで審査請求をするのがよいか、
判断基準になるポイントをご紹介していきます。■早期に審査請求をした方がよい場面
以下のような状況にある時は、早期に審査請求を行い、権利化をした方がよい場合が多いです。
なお、早期審査制度を活用することで、通常の審査期間を短縮させることができます。
(通常審査では、審査請求から最終結果までに平均14.3か月です)1.他社に対して権利行使をしたい場合
自社が特許出願した発明に係る商品を、他社が製造・販売等していた場合、
差止請求や損害賠償請求等の対応が必要になることがあります。
これらの権利行使は、特許庁での審査を受けて、特許権を取得した後でなければできません。よって、他社に権利行使をしたい状況にある場合は、
審査請求を行い、早急に権利取得をした方がよい場合が多いといえます。つまり、同業他社の動向は、どのタイミングで審査請求するかを検討する
考慮要素の一つになります。2.ライセンス契約等、他社との交渉の予定がある場合
他社とライセンス契約をしたり、一緒にビジネスを進めたりする際に、
特許権利取得済みであった方が、交渉をスムーズに進めることができる場合があります。取引相手からすれば、まだ特許庁の審査を受けていない段階の出願は、
将来的にどのような権利になるのか不確定な状態です。一方、審査を受けて特許権を取得すれば、権利の内容も確定しているため、
交渉のカードとしてより強いものになります。ライセンス等の取引の予定がある場合には、早めに権利化を行った方がよい場合が多いといえます。
3.特許権を宣伝等に利用する予定がある場合
特許出願した発明を用いた製品を市場に提供する際に、特許権を取得していれば
「特許取得済み」「特許第〇〇〇号」等の表示を付けることができます。このような表示をすることによって、自社の技術力をアピールすることができます。
以上のように、特許権を取得したということを宣伝等に利用する予定がある場合には、
早めに権利化した方がよいといえます。なお、特許権を取得していなくても、出願済みであれば「特許出願中」
等の表示をすることはできます。■審査請求を遅らせた方がよい場面
以下のような状況にある時は、すぐには審査請求をせずに、
タイミングを見計らった方がよい場合が多いです。1.国内優先権主張を伴う出願をする予定がある場合
特許出願した発明について、出願後にも様々な改良、改善が加えられることがあります。そこで、特許出願後に完成した改良発明について、特許出願後1年以内に限り、
先の特許出願の内容に改良発明を追加した、新たな特許出願をすることができる制度があります。
この出願を「国内優先権の主張を伴う出願」といいます。ここで注意しなければならないのは、査定又は審決が確定した出願は、
優先権主張の基礎とすることができないという点です。つまり、審査請求を行い、特許査定や拒絶査定等が出た後に、
優先権を主張して改良発明を追加することはできない、ということです。そのため、優先権を主張し改良発明についても特許を取得する予定の場合には、
基礎となる出願について審査を進めない方が賢明であるといえます。2.事業方針が定まっていない場合
審査には手間も費用もかかるので、その発明を実施する目途が立つまでは
審査請求をしないということも考えられます。場合によっては、審査請求をせずに審査請求が可能な期間が過ぎることもあります。
3.早期の公開が好ましくない場合
特許庁が発行する公報には、公開公報と特許公報の2種類があります。公開公報は、審査状況に関係なく、出願日から1年6か月後に公開されるものです。
一方、特許公報は、特許権成立後に公開されるものです。
権利化が早いと、公開公報が出るより先に特許公報が出て、
結果として発明内容の公開が早まることがあります。このような発明内容の早期の公開が好ましくない場合には、
審査請求を遅らせることも考えられます。■むすび
審査請求は、特許出願後3年以内であればいつでも行うことができますが、
そのタイミングについては、上述したようにいくつかの考慮すべき要素があります。詳しくは専門家である弁理士に相談することをお勧めします。
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